『ブッダ』 作者:手塚治虫 評価S

 

ブッダ全12巻漫画文庫 (潮ビジュアル文庫)

ブッダ全12巻漫画文庫 (潮ビジュアル文庫)

 

 『ブッダ』は少年向けの伝記マンガで、手塚治虫の創作した人物(チャプラやタッタなど)を盛り込んで、ブッダを中心とした群像劇になっている。手塚の平等主義に基づくヒューマンな物語である。

 

序盤はブッダ誕生以前の話で、チャプラとタッタが物語を盛り上げる。

チャプラは奴隷で、タッタはその下のバリアという階級の人間。バリアともなると階級以前の問題で人間以下の扱いを受けている。チャプラは石投げが得意で、おまけにイケメンである。だが、奴隷なのでどうしようもない。奴隷はどうあがいても奴隷なのである。しかしチャプラはワニに襲われた武士階級の将軍に近づき、身分を隠して、奴隷からの脱却を図るのだ。

 

将軍はすぐにチャプラが奴隷であることに気付くが、チャプラは命の恩人で将軍には子がいないので、チャプラを追放することができない。そのままズルズルとチャプラを手元に置き、大臣の娘との交際まで許可する。石投げしかできなかったチャプラは力を蓄えていき、剣術も学ぶ。しかし、生き別れの母の登場で、チャプラの運命は狂っていく。

最後に母を選んだチャプラは母と共に死刑にされ、将軍も処分を受けてしまう。チャプラの平等主義はタッタに引き継がれることとなる。

 

この凄絶なチャプラの物語の後に、青年になったタッタが現れる。タッタはシャカ族が率いる、弱小で、他国から攻められている国家に対する愛国心が強い。独立志向が高く、革命家のような面影がある。

 

幼少期のブッダは、シャカ族でカピラヴァストウという小国の王子だ。名前もシッダールタという。ブラフマンという人から、のちに、ブッダ(目覚めた人)と名乗るように言われてブッダと自称するようになる。

ブッダは高貴な女性と無理に結婚させられ、子までもうけるが、人生の目的、死、世の中の不平等などの問題を解決すべく、バラモン(宗教家)への道を進む。バラモンの一般的な修行形態は苦行なので、苦行をするが、苦行への疑問を持つ。のちに、自ら道を開拓し、弟子を多数もうけて、それが仏教となっていく。

 

手塚治虫は一流のストーリーテラーで、今の漫画家もぜひ見習って欲しいと思うのだが、ブッダの人生を描くというと、説教くさくなったり、小難しい宗教的・哲学的な物語になってしまうところを、そのテーマの根幹は活かしつつ、人間的で泥臭いキャラクターを多数揃えて、かつ、豊富なイベントを取り入れて、ブッダの伝記マンガを描いた。時にブッダが出てこない物語などが入り乱れるが、これが『ブッダ』が群像劇たるゆえんである。群像劇にすると、他者の視点から『ブッダ』という物語を見られるので、物語に厚みが出来るし、多面的になる。ブッダの伝記なのだからブッダだけを追うのではなく、チャプラ、タッタ、アナンダ、ダイバダッタなどの限りなく多くのエピソードを盛り込むことで、物語は活き活きとする。

 

ちなみに、私が好きなキャラクターは、アナンダ、ダイバダッタ、そしてブッダである。